第一章 顔筋柳骨

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 熱のこもった言葉に自分で照れて思わず俯くと、後れ毛が落ちてきた。すばやく耳にかけた直後、近くで低い咳払いが聞こえ、藤田が言った。 「一度自由に書いてみてください。僕は少し離れたところにいます。わからないことがあったら訊いてください」  そう言い残し、立ち上がった彼は潤の視界からいなくなった。裸足で畳を踏む音が後方に移動し、そのどこかに座る気配がして、部屋は静けさに包まれた。  潤は、筆を取った。斜めに傾けて墨に浸し、穂の根元までたっぷり含むよう筆を回転させる。乾いた毛が漆黒に濡れたら、毛先に溜まった墨を硯のふちで撫で落とし整える。  親指、人差し指、中指の三本で筆の軸を持ち、薬指と小指で軽く支える。穂を真下にして真っ直ぐにし、肘を机から離して、机と肘が水平になるように構えた。  少しだけ背後が気になるが、目の前に神経を集中させる。この言葉を半紙に書くのは初めてだ。小学生の書き初めで使った三枚判は半紙を縦に三枚連ねた大きさ。今回は大きく縦一行ではなく、二行でバランスよく書かなければならない。潤は白い半紙に完成形を思い浮かべ、小さく息を吐いた。
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