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柔らかな雪の深みに足をとられて、つっかけが脱げた。
バランスを崩した身体は前に倒れ、あっと叫ぶ間もなく目の前に白銀が迫る。とっさに落とした膝と両手が雪にのめり込んだ。
一瞬の鋭い冷感と同時に生じた、女将の江戸小紋と長羽織を濡らしてしまった恐怖に潤は慌てて立ち上がった。
一面の銀世界が野島の広い敷地を余計に広く感じさせる。
小さく息を吐き、振り向く。着物にはふさわしくない履物に一歩近づくと濡れた足袋を纏った足を入れる。そこから続く自分の足跡を視線で辿れば、十メートルほど先にある離れが視界を邪魔した。玄関の戸が少しだけ開いている。
脳裏に甦るのは、そのわずかな隙間から見えた男女のまぐわい。
潤は身をひるがえしてふたたび走りだした。
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