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潤はゆらりと立ち上がり、流れる涙をそのままにふたたび歩きだした。
彼らの掌中で踊らされていただけなのかもしれない。自身の知り得ない闇がこうして一歩一歩踏みしめている地面の下に深々と根づき、この地域一帯を掌握しているような気さえする。
このままなにもかも放り投げてこの町から出てしまおうか。そうして藤田に誘われたとおり、あるいは彼らの思惑どおり、東京に逃げ帰ってしまおうか。
――違う。
俯けた顔を隠すように、結っていない髪がさらさらと揺れる。震える手でそれを耳にかけながら、潤は心の中で帰るべき場所を拒否した。
あの地を自分の居場所だと思えたことはない。あの家がある東京に逃げても、どこにも拠り所など見つかりはしない。
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