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半紙の右上部の一点を目指して筆を入れる。『初』の一画目。斜めに入れ、少しだけ左に抉るように押さえる。思い描いた雨露のような形になった。
二画目は最後の払いに気をつけて、三画目は真っ直ぐな縦線。筆遣いはかろうじて身体が覚えているようだが、こわごわ運んだせいか線が歪み、墨が少し滲んでしまった。
一筆入魂、と心の中で気合を入れ、丁寧に、しかし躊躇せずに書いていった。『志』は心の部分が苦手だった、『貫』は縦のバランスを考えながら横線を引くのに苦労した、『徹』は画数の多さのわりに得意だった、などと思い出しながら。
「……できた。初志貫徹」
自身に言い聞かせるように呟き、潤は筆を置いて深く息を吐き出した。
振り返ってみると、藤田は続き間の襖の前であぐらをかいて目を閉じていた。まるで瞑想でもしているようだ。
「先生……」
ひかえめに呼んでみたが、聞こえなかったのか藤田はまったく動かない。もしかしたら寝ているのかもしれない。潤は立ち上がり、静かに畳を踏みしめて藤田のもとへ歩み寄った。
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