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それからどのくらい走ったのか。いつも通る道を避けながらとにかく遠くを目指した。しかし、どこまでも広がる田園風景は幼い勇気を軽々と呑み込み、炎天は冒険心を容赦なく削いだ。
詰め込みすぎたリュックの重さに負けそうになり、妹は思わず道端にしゃがみ込んだ。
――お姉ちゃん! 待って!
遠ざかる赤いリュックに向かって半泣きで叫んだ。
振り返った姉の顔はすでにくしゃくしゃに歪み、涙を流していた。
――早くしないとお母さん来るよ! とーきょー連れてかれちゃうよ!
そう言い放つと、背を向けてふたたび走りだした。
父のことが大好きだった姉は本気で逃げようとしていたのだろう。たとえ妹を置き去りにしても。
見知らぬ場所にひとり取り残される恐怖は臆病な妹を跳び上がらせた。
――お姉ちゃ……!
だが駆けだしたとたん、わずかに盛り上がった地面につまずき勢いよく転んだ。
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