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迎えにくる母はきっと心配しているだろう。自分たちの無事を目にすれば、安心して笑顔を見せてくれるかもしれない。幼心にもそんなふうに期待していた。
痛かったね、もう大丈夫よ――そう言ってくれると。
しかし、母の第一声は娘たちではなくおばさんに向けられた。
――お騒がせしてすみません。
おおらかな笑みを返す彼女に、母は矢継ぎ早に話しつづけた。
――こんな……たいしたけがでもないのに大泣きしたんでしょう。まったく、愚図で困ります。
吐き捨てるように言ったあとに初めてこちらに向けられた母の視線は、静かな怒りと失望に支配されていた。
――お母さんが大変なときに勝手なことばかりして! いい子にしないなら東京連れていかないわよ!
家に連れ戻されたとたんに頭上から降ってきたのは、すべてを壊す金切り声だった。
打ち砕かれた願望を胸に隠したまま立ちすくんで泣く妹の隣で、姉は「じゃあ行かない。お父さんたちといるほうがいい」と言い放った。母が泣き崩れるのを姉は冷めた目で見つめていた。
その一件が決め手となり、姉妹は離ればなれに暮らすことになった。
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