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東京の母の実家で母とその両親と暮らしはじめてから、おとなしかった少女はさらに息を殺すようになった。父方の祖父母には感じなかった軋んだ空気も、厳しさの増した母から強制される習い事も、早く家族の一員になるため、家族に喜んでもらうため、受け入れた。
絶叫マシンに乗る姉妹を描いた『夏の思い出』は、両親が離婚してから最初の再会の日だった。
父と姉、母と妹は、姉が望んだという遊園地に現地集合した。両親のぎこちない空気に取り込まれそうになりながらも、面倒見がよくなった中学生の姉とはすぐに打ち解け、ふたりで様々なアトラクションを楽しんだ。
――また会おうね。
そう固く約束して別れた。
だが、休み明けの学校で友人たちが「家族で海に行った」、「家族でバーベキューをした」、「家族で花火を見た」と次々に声をあげるたび、ざらついたものが心を削った。
家族――自分以外が持つ“当たり前”を、自分も持っていると主張したかった。こんなに楽しかったよ、お姉ちゃんと仲良しだよ、と皆に見せたかった。
色塗りに失敗したことは唯一の拠り所だった思い出を台無しにし、繊細な心を粉砕するには充分すぎた。
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