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静けさの中、遠くから音が聞こえた。タイヤが濡れた道路の上を走る音だ。
それが後方から近づいてくると気づき、潤はなにげなく振り返った。見覚えのある黒のSUVを視界に捉えた瞬間、心臓がどくりと胸を叩いた。
あの人の車とは限らない。だが一刻も早くこの場を離れようと思った。徐々に鮮明になる車体に背を向けて歩みを速め、とっさに見つけた脇道に入った。
朽ちそうな石壁や古い建物が両脇に並ぶ、ひっそりとした細道。雪の残る手入れのされていない石段を着物の裾を踏まないよう手で持ち上げながら上る。先は薄暗く、あたりに悍ましげにそびえる竹林に呑み込まれそうだ。
横から突き出た枯れ木が目に入り、その陰に身を隠してしばらく待つことにした。
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