第四章 尤雲殢雨

16/55
前へ
/391ページ
次へ
 凍えるほどに寒い。陽も沈みはじめている。ときおり吹く冷たい風が背後の竹林をざわつかせる。怖い。だが、あの車が通り過ぎるまでは出ていけない。  数分は経っただろうか。いや、一分にも満たないかもしれない。  何者かの鈍い足音がした。ざっ、ざっ、と雪を蹴る。走っているのか、その音はどんどん近づいてくる。  潤はその場にうずくまり、息をひそめた。 「うわっ」  突如そばで聞こえた、まだ姿の見えない人物の低い声。直後、どさりとなにかが地面に落ちる音がした。  恐々としながらひかえめに首を伸ばしてみる。 「あっ……」  そこには石段にうつ伏せになって倒れる男がいた。雪に滑って前に転んだのだろう。  予期せぬ光景に身体がこわばり息を凝らして見つめていると、男が呻きながら地面に腕を立てた。  ゆっくりと上体を起こし、気だるげに顔を上げたのは、やはり藤田だった。
/391ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2037人が本棚に入れています
本棚に追加