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凍えるほどに寒い。陽も沈みはじめている。ときおり吹く冷たい風が背後の竹林をざわつかせる。怖い。だが、あの車が通り過ぎるまでは出ていけない。
数分は経っただろうか。いや、一分にも満たないかもしれない。
何者かの鈍い足音がした。ざっ、ざっ、と雪を蹴る。走っているのか、その音はどんどん近づいてくる。
潤はその場にうずくまり、息をひそめた。
「うわっ」
突如そばで聞こえた、まだ姿の見えない人物の低い声。直後、どさりとなにかが地面に落ちる音がした。
恐々としながらひかえめに首を伸ばしてみる。
「あっ……」
そこには石段にうつ伏せになって倒れる男がいた。雪に滑って前に転んだのだろう。
予期せぬ光景に身体がこわばり息を凝らして見つめていると、男が呻きながら地面に腕を立てた。
ゆっくりと上体を起こし、気だるげに顔を上げたのは、やはり藤田だった。
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