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「せんせっ……」
慌てて駆け寄り、着物が濡れることも忘れて雪の石段に膝をつく。
そこで諦めたように座り込んでいる藤田が「潤さん」と小さく呟き微笑んだ。初対面のときと同じ無精髭とぼさぼさ頭の彼だ。
「大丈夫ですか、先生」
「うん。よかった……日が暮れるまでに見つけられて」
荒い息まじりの声からは今まで温泉街を探しまわってくれていたことが窺える。
「でも、どうして私が逃げ出したことを……」
思わず疑問を口にすると、藤田が苦笑した。
「屋敷に入ろうとしたのですが女将さんに追い返されてしまい、しかし帰る気にもなれず、しばらくあの駐車場で待っていました。もし潤さんから連絡があったらいつでも駆けつけようと。それからなにもなく三十分が過ぎました。とうとう耐えられなくなって、こっそり侵入してしまったんです。こんな身なりですし、誰かに見つかれば通報されていたかもしれません」
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