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伏し目がちにそう言ったあと、彼は気を取り直したように真剣な目をよこした。
「あなたを探しましたが、見つからず……」
だが途中で黙り込んでしまった。
その視線はなにかに吸い寄せられるかのように潤の右頬あたりに注がれている。次いで、おそるおそる伸びてきた彼の指がそこに触れた。
「あ、あの……」
戸惑いを声に出せば、その瞳はようやくこちらに焦点を合わせた。彼は哀しげに顔を歪ませ、ふたたび重そうに口をひらく。
「足跡が、残っていました。一軒の平屋に続く、いくつもの足跡が。ひとりなのか、複数人なのか。歩いたような足跡や、走ったような足跡、ばらばらに重なって……。とにかくそれを辿って平屋に向かいました」
その言葉は潤にあの淫景を思い出させる。
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