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ヒーターが点火してしばらく経ったころ、藤田が戻ってきた。その両手に抱えているのは、藍色の作務衣、同じ色の袖なし羽織、それと黒い長袖のTシャツだろうか。
「着物、さっき濡れてしまったでしょう。これ、僕のですが」
作務衣を広げて潤の肩に掛けると、彼は苦笑した。
「大きいな、やっぱり」
ひとりごとのように呟いたその声が優しくて、身体を覆う中綿入りの厚手生地があたたかくて、胸が締めつけられる。手渡された羽織とTシャツを受け取り、潤は小さく礼を言った。
「すぐに着替えますか。それとも先に風呂がいいかな」
尋ねられ、首を横に振る。
「どうぞお気遣いなく。お風呂はさきほど……」
答えて笑みを送ってみたが、藤田はなにか言いたげな表情を返してくる。その目がまた右頬に注意を向けた。
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