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机の前に正座した潤は、隣でゆっくりとあぐらをかいた彼がひと言目になにを発するのか怯えながら待った。
「……ううん」
その悩ましげな唸り声に、潤はひっそりと落胆した。
だが直後に発されたのは意外な言葉だった。
「野島さんは、なんというか、色気のある字を書きますね」
「い、色気」
「ふむ」
「あの……」
「顔筋柳骨」
「え?」
聞き取れずに身を乗り出すと、気づいた藤田がすまなそうに笑った。
「いい字です、とても」
易しい言葉で言い直した彼は、こう続けた。
「書写……習字とも言うし、最近では美文字なんて言葉もありますが、学校の教科書に載っている手本のように普遍的な上手さの習得を目的としたものをそう呼びます。一方、文字を通じて自己表現することを目的とするのが書道。どちらに重きを置くかで作品との向き合い方は変わってきます。書道における美しさというのはより芸術性を重視されるので、書写と違って文字の美しさは十人十色です。普遍的な技術ばかりに気を取られずに、その作品が自分にとって魅力的かどうかを考えることが大切です」
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