2035人が本棚に入れています
本棚に追加
/391ページ
その話に聞き入りながらも、潤は思った。この人は“下手”を“個性”だと褒めてフォローしてくれているに過ぎない。きっとそうに違いないと。
しかし、藤田はこうも言った。
「とはいえ、書写の基礎を身につけてこその書道ともいえます。それを踏まえたうえで、とてもよい作品です」
潤は納得した表情を繕ってみせたが、一方の藤田は困ったような笑みを浮かべた。
「つまり、僕はあなたの書を美しいと思ったということです」
「……っ」
「もっと専門的に説明することもできますが、それだと遠回しになってしまう気がして」
息を呑んだ潤に、藤田は優しいまなざしを送る。
「わかってくれましたか。僕の評価を」
「あ、ありがとうございます。でも、ここが少し滲んでしまいました」
指差した『初』の三画目に視線が注がれる。
「先生の作品のように力強く書きたかったのですが、なかなか……」
最初のコメントを投稿しよう!