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大きな身体に閉じ込められたまま、規則的に繰り返される呼吸を全身に受けながらひたすら息をひそめていた。
どのくらい経っただろうか。ようやくその体勢に慣れて浅い眠気が訪れた頃、背後にわずかな身じろぎを感知し、潤は目を見ひらいた。
「ん……あれ」
こもった低い声が降り、身体を抱きしめる腕の力が緩んだ。
背をひねって後ろを見上げれば、淡い灯の中、浮かび上がる顔は目をしばたたいている。状況を把握するのに精一杯といった様子だ。
数秒ほど見つめ合っていたが、藤田がなにかに気づいたようにすばやく腰を引いた。
「ごめん」
「いえ……」
「ああ、っと……そうか、僕が入れと言ったのか」
「覚えていませんか」
「いや、思い出しました」
苦笑しながら答える彼に、潤は笑い返すことができずに黙り込む。
やはりあの夢は幻でしかなかった。隠せない嘆息を漏らし、ふたたび藤田に背を向けた。
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