第五章 泡沫夢幻

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「なんだか怒っている?」  とぼけたような問いに、ますます不満が募る。 「別に怒っていませんけど」 「なにか言いたそうですね」  耳元でそっと指摘され、潤はため息をついた。正直に言うのは気が引けるが、今さら藤田に嘘やごまかしは通用しない。  背後でじっと言葉を待つ男におそるおそる投げかける。 「……私に、失望していますか」 「え?」 「飽きてしまった、とか」 「なんの話です」  怪訝そうな声は、もう寝起きのそれではない。 「どういうことですか、潤さん」 「だ、だから……」 「顔を見て言ってください」  その言葉とともに改めて強く抱きしめられた。首をひねれば、完全に覚醒した男のまなざしに捕まる。 「あ……」 「ん?」 「あ、昭俊さんが、あまり触れてこないから」 「僕が触れないから?」 「なんだか、不安で」 「不安?」 「わかっています、私の気持ちがしっかりしていないのが原因だって。だけど……だって、ふたりきりなのに……」 「うん」 「そうじゃなかったときより、距離を感じて」 「寂しい?」 「……はい」  最後には素直に返事するほかなく、潤は少しの敗北感を覚えつつ目をそらした。
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