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「なんだか怒っている?」
とぼけたような問いに、ますます不満が募る。
「別に怒っていませんけど」
「なにか言いたそうですね」
耳元でそっと指摘され、潤はため息をついた。正直に言うのは気が引けるが、今さら藤田に嘘やごまかしは通用しない。
背後でじっと言葉を待つ男におそるおそる投げかける。
「……私に、失望していますか」
「え?」
「飽きてしまった、とか」
「なんの話です」
怪訝そうな声は、もう寝起きのそれではない。
「どういうことですか、潤さん」
「だ、だから……」
「顔を見て言ってください」
その言葉とともに改めて強く抱きしめられた。首をひねれば、完全に覚醒した男のまなざしに捕まる。
「あ……」
「ん?」
「あ、昭俊さんが、あまり触れてこないから」
「僕が触れないから?」
「なんだか、不安で」
「不安?」
「わかっています、私の気持ちがしっかりしていないのが原因だって。だけど……だって、ふたりきりなのに……」
「うん」
「そうじゃなかったときより、距離を感じて」
「寂しい?」
「……はい」
最後には素直に返事するほかなく、潤は少しの敗北感を覚えつつ目をそらした。
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