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ふっ、と漏らされた笑いが前髪を撫でる。ふたたび視線を移してみると、いたずらめいた笑みに見下ろされていた。
「なにもわかっていませんね」
愉快げな声のあと、耳に唇が寄せられた。
「ふたりきりになった。誰にも邪魔されない」
じんわりと響く低い声に首をすくめれば、次いで甘い囁きが脳を縛りつけた。
「暴走するのは簡単です」
熱い吐息とともに耳に歯を立てられ、息が止まりそうになった。腰の奥の疼きが激しくなる。
「だから、僕はまだしません」
今はその理性が恨めしい。この身に藤田を迎え入れる直前まで昂り合った夜を思い返しながら、潤は呟く。
「暴走したじゃないですか」
「うむ……」
返す言葉もない様子で唇を結んだ藤田は、ふとすまなそうに微笑んだ。
「焦っていたんです。早く欲しくて」
「…………」
「反省しています」
「じゃあ、今は」
「ん?」
「今は、欲しくないんですか」
目の前にある深い色の瞳が揺れた。
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