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「お久しぶりです、藤田さん」
親しげに声をかけてきた女性は、ふと視線を藤田から潤に移し、注視した。知った顔ではないと判断したのだろう、改めてとびきり美しい笑みを浮かべた。
「はじめまして。白石です」
「あっ、はじめまして。私、野島と申します。藤田先生とは、その……」
関係性をうまく説明することができずに言い淀むと、隣で低い咳払いが聞こえた。
「彼女は僕のアシスタントです」
白石からなにか問われる前に、それまで黙っていた藤田がさりげない嘘で助け舟を出した。
「アシスタント……」
白石は呟きながら探るようなまなざしで潤の全身をひと撫ですると、うふふ、と上品に笑った。
「かわいらしい奥様が付き添いでいらしたのかと思いました」
藤田に買ってもらった洋服の中からブラウスとタイトスカートを合わせてビジネスらしさを意識したのだが、そう言われてしまうと、たしかに助手には見えないかもしれない。醸し出す空気がビジネスの場とはすっかり縁遠くなったことを実感し、潤は繕った笑みを返すしかなかった。
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