第一章 顔筋柳骨

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「時間があるときで構いません。だから授業料はいりません。気軽に学びにきてください」 「……でも、本当にいつになるかわかりませんし」 「いいですよ。月に一度でも、三ヶ月に一度でも」  その厚意がなにを意味するのかわからない。しかし、潤はそれに甘えたいと無性に思った。ほんの少しだけ、願望を言葉にしてみたくなった。 「もしできるなら、自分らしい字を追求してみたいと思っていました」 「それなら次からは臨書の学習をしてみましょうか」 「りんしょ?」 「はい。古典を手本として技法や筆遣いを学びます。自身の書風を身につけるためには必要不可欠な練習方法です」 「そうなんですか……」  言うだけならきっと許される。潤は心の中でそう自分に言い聞かせ、唇をひらいた。 「やってみたいです」 「うん」  藤田が満足げに頷いた。だがすぐに苦笑を浮かべ、無精髭に覆われた顎をさする。 「次はもう少し清潔にしておきますね」
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