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「時間があるときで構いません。だから授業料はいりません。気軽に学びにきてください」
「……でも、本当にいつになるかわかりませんし」
「いいですよ。月に一度でも、三ヶ月に一度でも」
その厚意がなにを意味するのかわからない。しかし、潤はそれに甘えたいと無性に思った。ほんの少しだけ、願望を言葉にしてみたくなった。
「もしできるなら、自分らしい字を追求してみたいと思っていました」
「それなら次からは臨書の学習をしてみましょうか」
「りんしょ?」
「はい。古典を手本として技法や筆遣いを学びます。自身の書風を身につけるためには必要不可欠な練習方法です」
「そうなんですか……」
言うだけならきっと許される。潤は心の中でそう自分に言い聞かせ、唇をひらいた。
「やってみたいです」
「うん」
藤田が満足げに頷いた。だがすぐに苦笑を浮かべ、無精髭に覆われた顎をさする。
「次はもう少し清潔にしておきますね」
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