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「なあ、どんな人だったの、藤田千秋」
しつこく話を続けようとすると、振り返った潤が訝しげなまなざしを送ってきた。ここ一ヵ月近く、寝床に入れば会話もそこそこにして眠ってしまうことがほとんどだった夫が急にほかの男の話を振ってきたのだから、うんざりするのは当然かもしれない。
横に並ぶ布団の向こうに膝を落とした潤は、長い艶髪を白く細い指で撫でつけながら片側に寄せ、さくらんぼのように小さな唇をひらいた。
「どうしてそんなに気にするの」
「別に深い意味なんてない。君こそどうしてそんなに警戒するんだよ」
思わず語気を強めれば、照明の引き紐を掴もうと腰を上げかけていた潤はふと動きを止め、膝立ちのまま視線を泳がせる。やがてその瞳が哀しげに曇った。
「……誠二郎さん、やっぱりこっちに帰ってきてから人が変わったみたい」
「なに言ってるんだ。なにも変わらないよ、俺は」
変わったのはお前だろう、と口走りそうになり、誠二郎は唇を結んだ。
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