第一章 顔筋柳骨

38/45

2035人が本棚に入れています
本棚に追加
/391ページ
 藤田という書家の話を振ったときから、なぜか誠二郎の分身は獰猛なほどにそそり立っていた。  その男の自宅で、あの力強い筆遣い以外になにを習ってきたのか。そんな馬鹿げた疑念は、殊勝で従順な妻が自分以外の男に犯される妄想に変わった。殺意が湧き、同時にひどく劣情を煽られた。  ありえないことだとわかっている。潤はそういう女ではない。ありえないと知っているからこそ、“もしそうだったら”という仮定の話が有意義なものになるのだ。  潤の言うとおり、ここに帰ってきてから自分は人が変わってしまったのかもしれない。いや、もっと前からとっくにおかしいのだろう。そう思い、誠二郎は彼女の最奥を突き上げながら嘲笑を浮かべた。
/391ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2035人が本棚に入れています
本棚に追加