第二章 雪泥鴻爪

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「まあ……」  求めている答えが得られたのか感嘆の声をあげた母親は、ふいに意味深げな表情を浮かべた。 「先生……なにか違うと思ったら、髭を剃られたのですね」 「え、ああ、はい」 「やっぱりそのほうが素敵」 「今までが汚らしすぎましたから。子供たちに怖がられていなかったのが不思議なくらいです」 「とんでもない! 先生はもともと優しいお顔立ちですもの。お人柄が表われています」  自信ありげに言い切った彼女は熱弁を続ける。 「こちらの教室はとても評判がいいんですよ。先生のところに預けてから子供の集中力が上がったとか、落ち着きが出てきたとか、ほかのお母さんたちも言っています。先生のお人柄が子供たちにいい影響を与えているんです、きっと」 「いやいや……」 「私も子供と一緒に学ばせていただきたいくらいです。でも大人の生徒は受け入れていないのでしょう?」 「ええ、まあそうですね」  曖昧に答え、熱風のごとく押し寄せる気迫にたじろいでいると、今度はなぜか色気を増した視線を向けられた。
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