第二章 雪泥鴻爪

12/113
前へ
/391ページ
次へ
「あの……先生は再婚なさらないのですか」 「は?」  唐突に不躾な質問をされ、思わず失礼な返事をしてしまった。ふさわしい言葉を探してみるも思い浮かばない。  そのとき、後ろから「千秋先生」と呼ぶ声がした。振り返れば、綾華が呆れ顔で柱に寄りかかっている。だが自分の役目は終えたとばかりにすぐ背を向け、すっきりとひとつに結われた髪と黒のプリーツスカートの裾を揺らして部屋の中に消えた。 「小川さん、すみません。そろそろほかの子供たちも来る頃ですので」  母親に向き直り極力優しい声色で言うと、彼女は諦めを示す息を吐いた。 「そうですね。私、余計な話までしてしまって……気になさらないでくださいね」 「いえ。ではまたのちほど」 「はい……」  母親はかすかに気まずそうな声を返したが、気を取り直したように強いまなざしと笑みを向け、「綾華をよろしくお願いします」と言い残し帰っていった。
/391ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2036人が本棚に入れています
本棚に追加