第二章 雪泥鴻爪

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「もうすぐクリスマス、か」  静かになった玄関でひとり呟いた昭俊は、手にしている紙袋をひらいて中を覗いてみた。  ピンク色のリボンで飾られた透明なラッピング袋にカップケーキが入っている。個包装されたものが四つ。小学生の女の子が一生懸命作ったものだと言われればそう見えるが、おそらくこれは母親に言われるがまま作らされた少女の苦労の証である。  綾華はここ以外にピアノ教室や英会話教室にも通っているという。どれも彼女の意志ではない。彼女にとってはすべてが決定事項なのだ。はじめからそう決められているから、やる。  年齢のわりに大人びて賢い彼女はそれをどう捉えているのだろうか。窮屈に感じてはいないだろうか。以前、気になって綾華に尋ねてみたことがある。「習い事は愉しいか」と。 ――愉しいです。書道だけ。  彼女は、ほんの少しだけ表情を緩めてそう答えたのだった。
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