第二章 雪泥鴻爪

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「今日の宴会のことでちょっと」 「あ、はい」  どうやら怒られるわけではなさそうだ。そう安堵したのも束の間、かけられたのは意外な言葉だった。 「君も宴会場のほうを手伝ってやってくれないか」 「え、だって、私は客室の担当……」 「美代子さんがいれば問題ない。もともと君は戦力外なんだし」 「……っ」  一瞬にして、頭の中が不安と疑問と怒りで埋め尽くされた。  誠二郎は「じゃあよろしく」と煩わしげに話を切り上げようとする。 「ちょっと待って。……私だって一生懸命やっているのよ」  白地の帯の前で重ねていた両手を握りしめ、潤は極力抑えた声で強く抗議した。しかし必死の訴えは届かなかったようで、誠二郎が眉間の皺を深くしてため息を吐いた。
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