第二章 雪泥鴻爪

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「申し訳ありません……」  頭を下げて自分でも理由のわからない謝罪をしながら、潤は思い知る。戦力にならない者はこうして疎まれていくのだと。このままでは本格的に非戦力扱いされ、追い出されてしまうかもしれない。  しぼむ気持ちを慰めるように、書道連盟という言葉が頭をよぎった。  書家を名乗る者が必ずしもそのような組織に属しているわけではない。そう思いながらも、白く霞んだ淡い期待の輪郭がくっきりと形を成していくのを潤は自覚した。  水と混ざり合い粘り気のある液体となった墨が白い紙を美しい墨黒に塗りつぶして固めてしまうかのように、その人の名前が黒々と浮かび上がり、べったりと脳裏に張りついて剥がれないのだ。
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