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「あっ、あの、誠二郎さん、待ってください。なにを……」
言い終わる前に彼は振り向いた。静かな迫力に圧されて狼狽する潤の腕をわずかに強く引くと、薄い唇をひらく。
「君を書道連盟の皆様に紹介するんだよ。野島屋の若女将として」
「……っ、でも、私はまだ」
「うん、まだ仲居だ。でもすぐに変わる」
硬い表情で見下ろされる。
潤は目をそらし、足早に動きまわる従業員たちを見遣った。
「仕事に戻らないと、ほかの仲居さんに迷惑をかけてしまうから」
誠二郎は鼻で笑い、おかしそうに眉を下げた。
「まだわからないのか。大丈夫だよ。君はこちらでも戦力に数えられていない」
「……っ」
「そんな顔をしないでくれよ。君が増える前から人数は足りていたんだから、君がいなくても彼女たちの仕事が成立するのは当然だろう」
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