第二章 雪泥鴻爪

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 ごくシンプルな服装がその穏やかな雰囲気を引き締め、彼の凛々しさを引き出している。整えられた黒髪やコートの肩には雪の粉がついている。この寒い中、藤田もここを散策していたのだろうか。 「宴会はいいんですか」  潤が尋ねると、藤田は苦笑した。そうしてひとこと、「あなたこそ」と呟いた。事の経緯を説明するわけにもいかず潤は口をつぐむ。 「やはりあなたは、野島屋の野島潤さんだったのですね」  旅館とは関係ないと嘘をついたことを咎めるわけでもなく、優しく諭すようでもなく、ただ静かな声が降った。  潤は消え入りそうな声で「はい」と返す。 「でも、もう……」  そうではなくなるかも、と口走りそうになり、唇を噛みしめる。  藤田が困ったように笑った。 「もしかして、木村さんのことで女将さんに叱られましたか」 「え?」 「ん、違いますか。さきほど女将さんが木村さんのところに行って、なにやらフォローしている様子だったので」 「……そうですか」
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