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「それで朝から騒がしかったのか。昨夜からベロナァルがよく効いてね、僕がはっきり目覚めたのは、つい今しがただからね」
加藤は不眠気味で、ずっと睡眠薬のお世話になっている。この男が警察というか、勤め人を辞めたのも、それが理由の一つだろう。
我々が話している間、せっせと机の上を片付けている様子の光子だったが、私がふと目をあげると、こちらを見ている彼女と目が合った。
彼女は慌てて目をそらす。
「で、殺されたのは菓子屋のご主人なのかい?」
「いや、少しややこしいのだが、その菓子屋の主人夫婦が2カ月ほど前から面倒みている爺さんだ。赤の他人」
「面倒みている?」
「爺さんは先だっての東京の大地震で関西に避難して来て、神戸婦人会が受け入れたのだ。地震で怪我をしてから具合が悪く、それでもしばらくは仕立て屋で働いていたのだが、最近いよいよ動けなくなって来てね。身寄りもないので、親切な菓子屋夫婦が引き取って面倒みてたらしい」
「そんな気の毒な爺さんをなぜ? まさか金品目当てではないだろうし……」
「目撃者がいてね。小達が慌てて菓子屋から出て来て逃げて行ったのを見ている」
「小達も確保されているのなら、小達と目撃者双方に話を聞けば一件落着じゃないか。僕に何をしろと?」
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