事件

4/4
前へ
/83ページ
次へ
「あの小達が口を割るはずないだろう。どうせ小達家が有能な弁護士を立てて推定無罪に持って行くのも目に見えているし。だが、こちらも負けっぱなしというのも癪に触るからね。有罪に持ち込めなくてもやれることは出来るだけやっておきたいのだ」 その時、光子の歌声が聞こえて来た。片付けしながら小声で歌っているのだ。こちらの真剣さをよそに、のんびり鼻歌混じりで機嫌よく働いているのがおかしくて、我々は話をやめて彼女を見る。彼女はそれに気づいて歌うのをやめた。 「ああ、いいんですよ。そのままお気楽に片付けて下さい。手仕事する時は誰でもつい鼻歌が出てしまうものだ」 加藤と私は、彼女の物怖じしないのびのびした気質を微笑ましく思う。 「すみません! 私ったらお仕事中に」 頬を真っ赤に染めた光子が、雑巾を洗うために部屋を出て行くと、加藤は大きく欠伸をして不思議そうに言った。 「そもそも何故小達が神戸にいたのかな?」 「よくわからんが、ここ何ヶ月か色んな場所で目撃されているらしい。西宮、芦屋、三ノ宮、元町……福原」 「さすが神戸の警察は優秀だね。わずか数時間の間に、それだけの情報を得たのか」 「小達は目立つからな。ここら辺の人間でも覚えているのは多い。特に盛り場からは驚くほどの目撃談が出てきた」
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加