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加藤と私は留守を光子に頼み、連れ立って加藤探偵事務所のあるビルから外に出た。
「しかし、今日来たばかりの娘さんに留守を預けたりして、随分と信用してるんだね」
「別に盗られて困るような物は置いちゃいない。現金も大事な書類も貸金庫に預けてあるからね」
「なるほど。抜かりないな」
「それにね、天知君はなかなか『いいお家の出』のような気がするのだ。身上書は完璧だし、彼女の着ていたコートを見たかい? 上等な毛織だ。かといって、あの身のこなしは下衆な言い方をすると、やや蓮っ葉に見える時もある。……不思議な娘さんだ」
「まあ、今はそんなことより小達の事件を探ることに専念してくれ給え」
我々はそんなことを話しながら水道筋まで来たが、規制線が張られており、顔なじみの警察関係者が大勢たむろしている。それだけでも、この狭い通りは通行することが出来ない。
「現場に入っても大丈夫かね?」
私は事件現場の木村菓子店の前に立っている若い警察官に尋ねた。
「はい、大丈夫であります」
警察官は敬礼し、硬い表情で答えた。
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