現場

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私は鷹揚にうなずき、店頭のガラスケースを眺めている加藤に声をかけた。 「現場に入ってくれるかな?」 「ここは小さな菓子屋とは思えない洒落た店だね。こんな色鮮やかなジェリイビインズまで置いてある」 彼が感心したように言う。私もつられて、色とりどりのジェリイビインズが収められたガラスケースを見る。 店には、他にもビスケットやクーヘンといった洋菓子から、赤飯や餅菓子、塩煎餅といった軽食のようなものまで所狭しと並べられていた。 加藤と私は狭い通路を通り、店の奥に入って行く。店の奥、一段高くなった所は、横長の狭い2畳ほどの畳の部屋であり、更にその奥が家族の住居となっているようだ。 「この畳の部屋で仰向けに倒れていたのだ。首に絞められた痕があった」 私は事件の概要を説明する。 いつもならおかみさんが10時ころに店を開け、その畳の部屋や店内にいて店番をしているのだが、今日は元町に住む娘の家に朝から出かけていて、爺さんがひとりで留守番をしていたらしい。 「旦那の方はどうなんだ? 事件当時、どこにいた?」 加藤に聞かれ、私は手帳を見ながら答えた。 「旦那の方はこの近くにある工場兼倉庫に行っていた。これは毎朝のことだ。リヤカーを引いて朝出かけて、菓子を積んで10時の開店時刻に戻ってくる。今日もきっかり10時に帰って来たら、爺さんがここで首を絞められて死んでたわけだ」
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