59人が本棚に入れています
本棚に追加
かといって、見慣れればどんな絶景もただの景色。ましてや、ここは絶景どころか小店や民家が重なるように並んでいる普通の街だ。加藤がぼんやりとではなく、何かに注意を払って見ているのは間違いない。
「君がここに来る10分ほど前から、妙齢の女性がこのビルヂングの前を行ったり来たりしているのだよ」
「え? それは気づかなかった。若い娘なんてうろうろしてたかな」
私の答えに加藤は振り向くと、今日初めて私の顔をまともに見て、目を少し細めるようにして言った。
加藤のくせなのだが、目を細めて人を見る時は、大抵相手を小馬鹿にしているのだ。
「君のお連れさんではないんだね」
私は「まさか」と答えて、まだ火をつけていない煙草を机の上に置き、ソファから窓辺に移動する。
加藤の視線の先に、垢抜けた服装の若い娘の姿があり、彼女は時折こちらの窓を見上げては思案している様子だ。
「もう10分もああしているのか?」
「時々、この通りを端から端まで行ったり来たりしていたから、ここにいるのはせいぜい2、3分だな」
加藤の答えに私は爆笑した。
最初のコメントを投稿しよう!