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別れさえ
告げることができなかったーー
こうした思いを胸にしたとき
人は他人からは見えない涙を
心の中で
人知れず流すのだろう
あまりに愛しすぎたから
俺は 怖くなった
失ってしまうことが
世の常だと
自分から遠ざけた
はずだった
それなのにーー
永遠に共にいられると
感じられることほどの
身に迫る恐怖を
俺は知らないまま
澄みすぎた秋の空のもと
おまえに背を向けた
晩夏の境から
冷たくなり始めた風が
まるでおまえのようで
そう 顔を見て
さよならは言ったんだよ
確かに 確かに
心の中で
何度も 何度も
告げ尽くしたはずだったんだよ
それでもまだ
心が叫んでたまらない
まだ さよならも言えていない、と
悔やんでも
悔やみきれない思いが
その古傷が
時折開いては
滂沱の涙となって
魂の闇に
流れ落ちてく
その煌めきが光みたいで
余計に見てられなくなった俺を
おまえは
どこかで見ているのか
おまえを亡くした
あの日から
この秋空が
俺にとっての
おまえの墓標となった
ほら 今年も
彼岸花が咲き匂う
紅く 紅く
悲しみを燃え上がらせながら
瞳の奥に焼きつくが如く
あまりにも美しく
花を咲かせている
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