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「あ、サークルの子じゃないよ。バイト先の従業員の人」
こいつはよそでも同じことを繰り返しているのか。そこで私の気は完全にそがれた。折よくラーメンも食べ終わったのでわりばしを置き、ごちそうさまでした、と手を合わせて立ち上がる。
「え、行っちゃうの?」
心から驚いた声を出したレディーキラーに、「自業自得。同情の余地なし」とぴしゃりと冷たく言い放った。ちょっと待ってよ、と不甲斐ない声を彼は出す。
「本当に困っているんだ。だって、骨がないと日常生活もまともに送れないんだから。現にいま、お昼が食べられない。朝も食べてないから、お腹空いてるのに」
「朝食を逃すほど、いちゃいちゃしていたあんたが悪い」
「朝はいちゃいちゃしてない。目が覚めたら彼女いなかったから」
はあ? と思わず声をあげて彼に振り向いた。
開いた口がふさがらない。膝から力が抜ける。椅子に座り直した私は、彼に言った。
「なに、つまりあんたは、同じ職場の年上の女の人と成り行きで一晩過ごしたら、骨抜きにされたあげく、置き去りにされたってわけ?」
「客観的に言われると、なかなかひどい状況だよね。あ、もうひとつひどいことがあった。ホテル代は、全額自腹」
あっけらかんと笑った彼に、私は額を押さえた。それを見て彼は気楽な声を出した。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ。悪い人じゃないから、話せば僕の骨くらいすぐに返してくれると思うんだ」
骨抜きにしてホテル代を押し付けていなくなる女をよくそこまで信用できるな、と私はため息を堪えられなかった。彼はそんなことをちらとも気にせずに、笑いながら私に頼んだ。
「とりあえず、食べさせてくれる?」
私はいよいよ頭を抱えた。
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