前書き

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蘭真紅(あららぎ しんく)は懸命に笑いを堪えていた。 「皆さん雲母(きらら)工業株式会社への入社おめでとうございます。皆さんのこれからの活躍を期待しています。」   暖かな風に舞う桜の花びらと、それと共に漂う花々の香りが、真新しい緊張感を増させるこの季節、入社式を迎えていた蘭真紅の目の前で予期せぬ事態が起きていた。   社長が挨拶を終わらせて礼をした瞬間、黒い物体が静かに落下した。   (…?…っえ?!、まさか……っ??)   私は辺りを見回した。私以外の同期の子も懸命に笑いを堪えていたが、出席していた会社の人たちは何故か呆れたような顔をしていた。 「…ん?あぁ、こりゃあ失礼。」  社長は落とした黒い物体を手で払うと、それを頭に乗せて、パチっ。パチっ。っと止めて元の定位置に戻っていった。 (こんな(おおやけ)の場で、ヅラを落としてくれるなんてっ…!!どうかしてるっ!)  この時は知らなかった。これを上回る悲劇が彼女に降りかかる事を…。
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