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「この邪魔の訳しが、最初までは良い線いっていると言う所までで御座います。」
「あぁ!…そうだったね。…うん、それは本当。『この件裏あり』は合っていると思うんだ。…問題はそこから先だね…。」
「官兵衛、『この件裏あり』以外ひらがなに全部戻してから考え直した方が良いんじゃないかしら?」
「それもそうですね秀吉さん。よし、そうしましょう!」
と言うわけで、『この件裏あり』以外の文面を、別の紙にもう一度ひらがなに書き写すところから始めた。
…だが、何度考え直しても、そう簡単に解ける代物ではなかった。
「どうしましょう…。時間も惜しいと言うのに…。官兵衛、何か分かった?」
「いいえ秀吉様…。信長様はいかがですか…?」
「さっぱりだな。」
信長様でさえこの始末。
「だが、この文面で一番不可解な単語は、『しゆ』と『こいし』と『かわず』だ。この意味さえ解れば後は容易いような気がするがな。」
(『しゆ』と『こいし』と『かわず』か……。)
「すいません、書簡の方をもう一度見せてもらえませんか?」
「いいよ、どうぞ真紅ちゃん。」
「ありがとうございます、官兵衛さん。」
何か他に手がかりがないか、書簡本体をもう一度見る。
この書簡は、短編に書かれた子供向けの物語のようだった。
(伊勢姫様…、きっとこれを残す事は、いずれにせよ命懸けだったはず。貴女は、そうまでして一体何を伝えたかったのですか…?)
そんなことを思いながらページを眺めている時だった。
(…ん……?)
穴が開かれているページだけを何度も見直しているうちに、私はある事に気付いた。
「あっっっ!!!」
「どうしたの?!真紅ちゃん?」
「あの…!一個だけ解った気がします!!意味は合っているかどうか分からないけど……。」
「良いよ。聞かせて?真紅ちゃん。」
官兵衛さんは柔和な笑みを浮かべて優しく訊ねる。
「はい。あの…、私たち、この暗号を解く事だけに集中していたじゃないですかね?それがそもそもの間違えだったんです。」
「間違え…?」
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