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「今は昔、地上で生活する土竜がいた。なに、珍しい事じゃない。その時代では、土竜は地上で生活する生き物だったんだ。ある夏の事、一匹のロクじゃない土竜が『暑い、暑すぎる。太陽なんかなきゃあ良いのに!』と言った。だが、ロクじゃないのはこの一匹だけではなかった。『どうせなら、あんな太陽矢でも放って打ち落としてしまえ!』なんてアホな事を言う土竜まで出始めた。アホはこの二匹だけでは止まらず、土竜全員がその意見に賛同した。みーんなアホだったという訳だ。そうと決まると、土竜達は早速戰準備に取り掛かり、太陽が一番最初に顔を出す東へ向った。一方でその様子を隠れてコソコソと見ていた奴がいた。それが蛙だ。事の重大さを知った蛙は、太陽に一早くこの事を知らせるべく、自らも東へ向かって休む間も無く走り続けた。そして土竜よりも早くその場所に到着した蛙は今にも顔を出しそうな太陽に向かって『アンタちょっと待ってくれ!土竜達がアンタを狙っている!!』とこれまで見た土竜の目論みを蛙は全て太陽に説明した。すると太陽は『ありがとうカエル君。事情はよう分かった。カエル君は私に背を向け、ここから離れて遠くへ逃げなさい。決して私の方を振り向いてはいけません。』と言った。カエルは言い付けを守り、決して振り向かず出来るだけ遠くを目指し走った。そして、太陽がなに食わぬ顔で顔を出すと、蛙が言った通り矢を構えた土竜の大群が待ち構えていた。太陽はそんな土竜たちの愚かな姿を見て鼻で一笑いすると、最大限のとてつもない強い光を土竜達にお見舞いした。そんな強い光を直に目に入れてしまった土竜達は、目が潰れて陽の光の元での生活が送れなくなり、この時を境に暗い地下で生活するようになった。………っていうのが『土竜と蛙』の話。どこまで本当の話かは知りませんがね。」
「へぇ〜、初耳ねぇ。」
「…して娘、これがどう関係があると言う?」
「はい、この書簡の中には、他にも違う物語が記載されていました。ですがその中で、この『土竜と蛙』の話だけに印があるのは、きっとこの物語自体になんらかの意味があると思ったんです。そして、牢獄で見つかった大きな穴…、私は妖についてはあまり詳しくはありませんが、もし、穴を開けたのが土竜の形態変化を持つ妖で、暗号の『われかわず』が『我、蛙』という意味で、その蛙が伊勢姫様を示しているのではないかなぁ〜?と思ったんです。」
「土竜の形態変化……」
英さんはふと呟く。
「英さん、何か心当たりあるんですか…?!」
「さっきの『こいし』の部分にねぇ…。どっかのアホは変な訳し方してたけど、この『こいしふたつしろにあり』は『小石二つ城に有り』ではないか?それならば、アタイはこの『小石』とやらに心当たりがある。」
「『小石』にですか…?」
「えぇ。きっとこれは、この件の犯人の名前を表している。おそらくあの『燈』っていうのも偽名だろう。そしてこの『二つ』が意味しているのは人数と考えるのが妥当。」
「英ちゃん、それは一体誰だと言うの…?」
官兵衛さんは先程と違って真剣な眼差しで訊ねる。
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