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「なら、上杉謙信の指示ではない可能性があるのか…?」
「…別によ、俺は敵の大将の肩を持とうって訳じゃねぇけどよ、奴は『軍神』呼ばれるほどの男だぞ?戰で何度も見ているから分かるが、やはりアイツはその異名に相応しい敵ながら格好良い奴だと俺は思っている。そんな奴がな、その名を汚すような事を家臣や軒猿の連中に指示するはずがないんだ。少なくとも俺が見てきた軒猿の仕事の仕方と細姉弟の仕事の仕方はまるで違う。多かれ少なかれ、謙信以外の力が働いている可能性も視野に入れた方が良い。俺は、上杉謙信の指示でない事を願いたい。今、俺から言えるのはここまでだ。…ってか、俺やたらにベラベラ喋っちまったが、こんなのがなんか関係あるのか?ってか、俺が俯いている間、一体どこまで話を進めたんだ?!」
「『しゆのいとなし』…。」
慌てふためく瑠璃さんをよそに、ゴンさんが呟く。
「官兵衛様、先程の書簡を自分に見せて頂けませんか?」
「いいよ、どうぞゴン君。」
「ありがとうございます。」
ゴンさんは書簡を受け取ると、穴の印が付いたページを隈無く見直す。
「……っ!、やはりな…。」
ゴンさんは何かに気付いたらしい…。
「官兵衛様、この『しゆのいとなし』の『ゆ』に当てはまる穴の印…、他の穴の印より明らかに小さい気がするのですが。ひょっとして、『ゆ』ではなく、小さい『ゅ』ではないでしょうか?」
「どれどれ……、っ!本当だ。この文字の印だけ穴が小さいねぇ…。」
「であれば、この一文は『主の意図無し』になるのでは…?」
ゴンさんのとどめの名推理で、この瞬間全ての謎が解けた。
「でかしたぞゴン!流石だぜ!!」
瑠璃さんは感心したように頷く。
「なに、大雑把な貴方の事だろうと思って、見落としがないかもう一度自分の目で確かめたまでです。『自分の目で見たものを信じよ。』主君の教えで御座います。」
「ケッ…、人が珍しく讃えてやってりゃあよ……。近頃お前も、あの性格の悪い主君に大分似てきたな。」
「褒め言葉として取ってきましょう。」
(うわぁ……ゴンさん笑みを浮かべて嫌味を嫌味で堂々と返してる…。流石、光秀さんの家臣だな…。)
「見直したぞ、娘。」
「……っえ…?」
ゴンさんがこっそり私に耳打ちする。
「わっ…、私ですか……?!」
「当然だ。お前の気付きがあったからこそ、今の結果がある。お前が見つけていなければ、アイツの奇奇怪怪な訳を永遠と考えざるを得なかった。」
「そんな…、私は大した事はしてません。ゴンさんが、あの書簡を持って来てくれたから、こうして伊勢姫様の誤解が晴れようとしているのです。私はゴンさんにとても感謝しています。」
「いいや、安堵するのはまだ早い。あれだけでは、十分な証拠にはならないだろう…。これからだぞ。気を引き締めろ。」
「はい!」
私は、初めてゴンさんに認められたような気がして少し嬉しくなった。
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