後編*長すぎる夢の先に見たもの

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 ルディは青い瞳を大きく見開いた。それからわなわなと唇を震わせて、聞きわけのないのない子供のように首を横に振った。 「そんなことないっ……僕は、幸せだったっ」 「ううん。せんせーは半年前からずっと……一年ちょっと前の私と、同じ顔をしてる」    フウの黒い瞳に正面から見据えられた時、死にかけてほとんど動かなくなっていた彼の心臓がびくりと反応した。  恐々と、目の前の彼女の顔を見返したルディの手を、フウがそっと握る。 「せんせーは……大切な人が亡くなったことをちゃんと受け入れて、哀しまなくちゃいけない」  一年と少し前にルディのことを冷たく振り払った少女の手は、彼が想像していたよりもずっと熱かった。 「私の大好きだったお母さんもね……二年前に、死んじゃったんだ。お母さんがいなくなってすぐのあの頃は、毎日ぼうっとしてた。あんまりにも受け入れがたくって、私もお母さんの後を追ってみようかなってバカなことを考えたりもした。どうして生きているのか、分からなくなってしまった。何の悩みもなく見えて、ただ能天気そうに暮らしている周りの人たちが、みんな憎らしく思えた」  呆然として言葉も見つからなくなってしまった彼をそっと抱きしめて、「でもね」とフウはまだ幼さも残るあどけない声で続けた。
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