前編*光り輝くような幸福に包まれて

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 十五歳で義務教育を修了し同じ中学校を卒業した二人は、生まれて初めて別々の地で暮らすこととなった。  卒業後、リタは地元の女学校に進学することが決まっていたのに対し、ルディは都メルクの教員養成学校に通う為にケレイスを発つことになっていたからだった。  今までどこへ行くにも一緒だったルディが出立する前日の夜、リタは星空の下で小さな子供のように泣きじゃくっていた。大粒の涙をこぼし続ける彼女を見つめていたら堪えきれなくなってしまって、彼もぽろぽろと泣いてしまった。  ルディはリタをやさしく抱きしめると、嗚咽を漏らして震える彼女をなだめるように、その背中をさすった。 「リタ、そんなに泣かないで。手紙だって書くし、長いお休みには絶対に帰ってくる。そうやって過ごしていったら、きっと卒業するまでの五年間なんてあっという間だよ」 「ううっ……それでもっ、今までみたいに、毎日は会えなくなっちゃうわ。ルディは、淋しくないの……?」 「……もちろん、淋しいよ。今までと同じように、リタと片時も離れずに暮らしていけたらいいのになぁって思ってる」 「それ、なのに……どうして、行っちゃうのっ」 「これからも、リタとずっと一緒に過ごしていくためだよ」  その瞬間、彼女はぴたりと泣き止んで、自分よりも少しだけ背の高いルディを呆けたように見上げた。 「先生に進路について聞かれて、将来どうやって生きてゆこうか考えた時にね……真っ先に思い浮かんだのが、大人びたリタが相変わらず無邪気に僕の隣で笑っている光景だった」    予想だにしていなかった大胆な彼の発言に、リタの心臓はびくりと飛び跳ねた。ルディはなるべく平静を装いながら、静かに言葉をつづけた。 「その時にね、ああ、僕の未来はこれしかないなぁって胸にすっと光が差した。でもね、今の僕はまだまだ未熟で……思い描いたように君を幸せにする力なんて、これっぽっちも持っていないんだってことにも気づいたんだ」  彼は、驚いて言葉も出せなくなっているリタの瞳の端に浮かんでいた涙をそっと指で拭うと、微笑んだ。  「僕は、生まれ育ったこの場所で、誰よりもリタを幸せにしたい。胸を張って、堂々と君の隣に立っていられる自分になりたいと思った。その時……教師になったら良いんじゃないかって思ったんだ」
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