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そうして過ごしているうちに、ルディが教師になってから一年半が経過した。
そんなある日のこと。
せんせーの幸せは、唐突に崩壊した。
リタが、難病を患ったのだ。
取り乱したルディは、彼女の命をどうにかして取り留めようとした。
ケレイスだけでなく、メルクからも腕の良い医者を呼び寄せたけれど、その誰もが悲しげに瞳を伏せて力なく首を横に振った。
医者は口をそろえて、リタの命はもってあと半年だと言った。
病に身体を蝕まれ、日に日に痩せ細っていくリタを、ルディは狂おしい気持ちで眺めていた。リタにつられるようにして幸せだったあの頃とは別人のように痩せてしまったルディのことを、誰もが気遣わしげに見やっていた。
彼女が難病を患ってから、半年が経った。
丸みをおびていた手が骨ばり、頬もすっかり痩せこけてしまったリタは、ベッドの上で浅い息をしながら、最期の時が近づいてきていることを悟ってルディを呼び寄せた。
「ル、ディ……もう、そろそろ、さよ、なら……みたい」
「……いやだっ。どう、して……っ。こんな、こんなことになるって分かっていたなら……っ、あの時、教師を目指そうだなんて思わないで、少しでも長く君の傍にいればよかったっ」
「ダ、メ。……そ、んな、さみしい、ことを言わない、で」
ルディが必死に努力をして教師になったのは、リタの為だった。
そのことは、彼女自身が他の誰よりも身に染みて分かっていた。だからこそ、彼にその決死の努力すらも否定させてしまった自分の儚い身の上をリタは憎らしく思った。
「やだっ……いやだよっ。リタっ、僕を置いていかないでっ……」
「ゴメンね、ルディ」
聞き分けのない子供をあやすようにルディの髪を力なく撫でながら、リタはそっと彼の耳元で囁いた。
「愛してる」
ルディが永遠の愛を誓った最愛の妻は、医者の宣告通り、眠るように瞳を閉じた後そのまま目を醒まさなかった。
彼が魂を分け合った彼女は、あまりにも若くしてこの世界を去った。
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