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その瞬間、心臓の半分を?ぎ取られたような激痛が彼の身体を走り抜けて、ルディは泣くことすらもままならなかった。
――リタが死んでしまっただなんて、嘘だ。これはきっと、悪い夢かなにかだ。そうに違いない。
酷すぎる現実の重みに潰されてしまった彼は、気を失うようにしてすっと意識を手放した。
次に、ルディが目を見開いた時。
彼の目の前では、世界で一番愛おしい妻が病に蝕まれる前の瑞々しい姿で微笑んでいた。
「どうして、泣いているの?」
リタが何にも知らないような顔をしてきょとんと首を傾げた時、彼は胸がいっぱいになって、どうにかなりそうだった。
「リ、タが……僕のことを、置いていくからっ」
「ヘンなルディ。わたしは、ここにいるじゃない」
彼女が透明な声でくすりと笑う。リタが白く丸い手で泣いているルディの頭を撫でた時、心の底から彼女への愛おしさが溢れだした。彼は、衝動のままにリタに腕を伸ばした。
それから、幼い頃と同じように、どこまでも幸せで綺麗なものだけに充ちた穏やかなこの楽園を、リタと一緒に駆けずり回った。
彼女が亡くなったあの日から、ルディはもう半年近く毎晩、この酷く幸せな夢を見続けている。夢の中で彼女と逢っている間だけ、現実世界で死んだように麻痺している彼の心臓はうずき出し、時が流れ出す。そうしてひとしきり夢の中で遊んだあと、目を醒まして彼女のいない現実に帰ってくるたびに鋭い喪失感に刺し抜かれるような痛みを覚える。
それでも彼は、この美しく残酷な夢の中から抜け出そうと思えなかった。
――だって、このやさしくてきれいな夢の世界でリタに触れあう時、たしかに僕はあたたかくて、幸せな気持ちで満たされる。
今やルディは、この幸福の象徴のような夢によってのみ、辛うじて生かされていた。
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