0人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「お世話になりました」
「今までご苦労様」
この日、俺は三年勤めた会社を辞めた。
「引き継ぎのデータはこのUSBに入ってます。パスワードは初期のに戻してありますので」
日曜の朝、フロアには俺と直属の上司である係長の二人きり。簡潔に終わらせてデスクの上に残った少ない私物を引き取れば終了だ。
「有給未消化分は精算して来月の給与と合わせて振り込まれるから」
「はい。ありがとうございます」
かなり使ったと思ったが、それでも残っていたらしい。どんだけブラックなんだか。まぁだからこそ俺が今こうなってるんだが。
「……先は決まってるのか?」
「一応、友人が自営なのでいつでも雇うと。ですがとりあえずは少し休養してからと考えてます」
「……そうか」
嘘だ。自営の友人なんていやしない。けどこの気弱な上司に要らん心配をかけても仕方ない。ストレスでドロップアウトするのは俺だけでたくさんだ。
「こちらの都合で休日の早い時間にご足労願いまして申し訳ありませんでした」
「いやいや。こっちこそきちんと部下を管理出来なくて……こんな事になって申し訳なかった」
「係長のせいじゃないですよ。自分の弱さが招いた結果ですから」
そう。続けられる奴は続けられるんだ。俺が無理だったってだけで。現に同期の奴らは辞めてないんだから。
「それでは失礼します。社員証は警備の方に預ければいいですか?」
「いや、下まで一緒に行くよ」
「すみません」
エレベーターからエントランス、通用門まで二人で無言だった。お互い何を言っても誤魔化しにしかならないのがわかっていたから。
「では」
「うん」
社員証を係長に返却して。
「新居が決まり次第、総務に連絡しますので」
「あぁ。保険なんかもあるからなるべく早くに頼む」
「はい。では失礼します」
「あぁ」
さぁ、寮も出たし早いとこ部屋を探さないとな。
最初のコメントを投稿しよう!