怒り

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怒り

 わたしはTVを観ていた。  そしてひどく憤慨した。  TVでは、難病の方のドキュメンタリー番組が放送されていた。  過去、母もその難病患者のひとりであった。  ドキュメンタリー番組では、それがどんな病気なのかとか、どれだけ深刻なものなのかとか、その闘病がどれだけつらいものなのかとか、実際の映像や再現ドラマを通して視聴者に見せつけていた。  でも、違うのだ。  本当はそんなものではない。  その病気で亡くなった母とわたしは、二人三脚で乗り越えようとしていた。  希望を持って喜びに浸った時期もあった。  TVでは伝えられないような、ひどくつらい時期もあった。  こんなチンケな番組では、実際の喜びや悲しみ、苦労を伝えることはできない。  わたしは思った。  世界には、実際に経験しないとわからないことが多すぎる。  結局、わたしも母の本心を知ることなく、知るすべもなくお別れをしてしまった。  それは仕方のないことだったのだ。  本人ではないのだから。  この怒りは、TVに向かってではなく、母の心を最期まで推し量れなかった自分に対するものだったのかもしれない。
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