貴方に似合うのは赤い薔薇

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今思えば、こんな想いをするくらいなら、 生花のまま飾って、枯れさせちゃえば良かったって思う。 そして、今日、付き合ってから丁度1年が経った。 結果的に言えば、私達はもう終わった。 理由は、彼の自殺。 それも、彼の命日は今日、今この瞬間。 私は今、ジャーっと水道から水が止めどなく流れる音だけが 響いているお風呂の床に座り込んで、その音を静かに耳にしている。 そして、浴槽の側で座り込んだ私の目の前にいる 彼は真っ赤な水で満たされた浴槽に左手を浸して、お風呂の へりに顔をつけてぐったりと寝ている。 ゆっくりと真っ赤に染まった浴槽から小指に指環がついた彼の左手を持ち上げて、恐る恐る手首を確認した。 考えたくはなかった予想がやはり見事に的中した。 彼の手首には深く大きな切り傷があった。 自殺、したんだ...。なんで...。 色んな確認を終えて、この状況が理解出来た瞬間、 一筋の涙が頬を伝った。 いや詳しく言えば、お風呂場に来て、彼の姿を見た瞬間から 状況は分かっていた。 でも、理解したくはなかった。 だって、そこでお利口さんに理解をしてしまったら もう、目の前の現実を受け入れてしまったことになる。 そうなったらもう、彼は、私の愛する彼はもう戻って来ない。 思い出したように私は、2人でずっと時間を共にしたリビングに走った。 そして、彼にもらった薔薇の花束のプリザードフラワーが 入った綺麗な円柱形の硝子ケースを手に取る。 お風呂に戻り、座って赤みを帯びた水で濡れた床のタイルに 硝子ケースを打ちつける。 2・3回強く打ちつけると、ガシャンっと大きな音を立てて 硝子ケースは意外と呆気なく割れた。 彼がくれた4本の薔薇の花束を手に取って見つめる。 涙のせいで真っ赤な薔薇が滲んで見えてしまって 美しさは半減した。 でも、手に取った触感と、もらった時に嗅いだ匂い 薔薇の艶やかさに彼を感じずにはいられなかった。 私はこの花束をもらったいつかの誕生日の日を 思い出していた。 その時、彼がはにかみながら言っていた 『彼だけの秘密』を思い出す。 すぐさま、私はポケットから携帯を取り出して、 検索画面を開く。 「4本の薔薇花束 意味」 すぐに検索結果が出た。 ページを開いて見た瞬間、目から涙が止めどなく溢れた。 涙は頬を伝って、下ろした手元の薔薇の花びらに 朝露のように纏わりつく。
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