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「二度はありません。宜しいですね」
「はい……ですが、ヤンジェ様」
「わたくしは、世子様の妻です」
毅然と言うと、今度は先刻とは違う意味で、またも叔父は瞠目する。
「たとえ、あの方がわたくしを妹としか思っておられなくとも、わたくしは心からお慕いしております。親類縁者を大切にするのも儒教の教えですが、両者を秤に掛けねばならなくなった時は、わたくしは夫と運命を共に致しますので」
だから、今後何を言われようと、それが一族繁栄の為であろうと、イノが金輪際世子の暗殺に手を貸すことはない。
ファンを可愛く思っていることと、それは全く別の問題だし、筋が通らない。
暗にそれをはっきりと告げると、イノは踵を返す。
今度は、ウォニョンも追って来なかった。
「……ヤンジェ様」
恐る恐るといった口調で、背後から話し掛けてくる尚宮に、「今のやり取りは他言無用だ」と返す。
「この場にいた内人たちにも徹底しなさい。いいわね」
「……はい、ヤンジェ様」
余計なことを一切言わずに、ただ返事を返した尚宮の声を背に、強張った顔のまま居所へ歩を進める。その途中、「イノねえさまー」と前方から声が掛かった。
視線を上げると、満面の笑みを浮かべたオキョンが、こちらへ駆けてくるところだった。
その後ろから、尚宮の手を握ったままのファンもヨチヨチと走っている。
こんな陰謀だらけの宮中で、あの無垢な幼子たちはどう育つのだろう。
そんな不安を胸の奥にしまい込み、イノは子供たちに笑顔を返した。
【了】
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