19人が本棚に入れています
本棚に追加
「ぜんぜんよ! ねえさま、だまされてらっしゃるわ!」
「ほらほら、ファンもオキョンも、しばらく下がっていらっしゃい。姉様は遊びにいらしてる訳ではなくてよ」
収拾が付かなくなる前に、と遮る王妃に、「あら、わたくしは構いませんのに」とイノも口を挟む。
しかし、王妃は保母尚宮〔王子王女の養育係の女官〕たちに手を振った。会釈で応えた尚宮たちは、それぞれオキョンとファンを促し、退出していく。
「あーあ、行っちゃったー」
それを見送ったイノの、名残惜しげな呟きに、「またいつでも会えるじゃないの」と王妃が苦笑混じりに宥めた。
「そなたも、今や住まいは宮中なのだから」
言われて、イノは顔を王妃のほうへ戻した。
「どう? 宮中の暮らしには慣れて?」
「……まだ分かりません。時折訪ねるのと、実際に住まうのとでは大違いで」
イノが、世子〔皇太子〕の側室最高位・ヤンジェとして後宮入りしたのは、去年の十一月だ。かれこれ半年も前になる。
叔母が王妃である関係上、それまでも度々宮殿へは足を運んでいた。だが、流石に住まうとなると、また話が違ってくる。
「そう……世子とは、どう? 上手くやっていて?」
瞬間、イノは息を呑んだ。
やはり、そのことで呼ばれたのだろうか。
考える一瞬の間は、どうやら叔母に否定の意を伝えてしまったらしい。
「……あまり、そなたの許へは通って来ないの?」
「……いいえ。そうではありませんけれど」
イノは目を伏せたまま、歯切れ悪く答えた。
夫となった世子は、新婚初夜にも優しく接してくれたし、観象監〔天文、風水などを扱う気象関連部署〕の指示する床入りの吉日には、きちんとイノの許を訪ねてくれる。だが、それだけだ。
「あの方は……わたくしを妹以上には見て頂けないようです」
側室とは言え、世間的には、イノは世子の妻になった。だが、世子個人から見たイノは、妹以上でも以下でもないらしい。
『すまない。そなたは私にとって、大切な妹なのだ。兄妹としては、そなたを愛している。だが、妹を女人として抱くことはできない』
最初のコメントを投稿しよう!