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「ぜんぜんよ! ねえさま、だまされてらっしゃるわ!」 「ほらほら、ファンもオキョンも、しばらく下がっていらっしゃい。姉様は遊びにいらしてる訳ではなくてよ」  収拾が付かなくなる前に、と遮る王妃に、「あら、わたくしは構いませんのに」とイノも口を挟む。  しかし、王妃は保母(ポモ)尚宮(サングン)〔王子王女の養育係の女官〕たちに手を振った。会釈で応えた尚宮たちは、それぞれオキョンとファンを促し、退出していく。 「あーあ、行っちゃったー」  それを見送ったイノの、名残惜しげな呟きに、「またいつでも会えるじゃないの」と王妃が苦笑混じりに宥めた。 「そなたも、今や住まいは宮中なのだから」  言われて、イノは顔を王妃のほうへ戻した。 「どう? 宮中の暮らしには慣れて?」 「……まだ分かりません。時折訪ねるのと、実際に住まうのとでは大違いで」  イノが、世子(セジャ)〔皇太子〕の側室最高位・ヤンジェとして後宮入りしたのは、去年の十一月だ。かれこれ半年も前になる。  叔母が王妃である関係上、それまでも度々宮殿へは足を運んでいた。だが、流石に住まうとなると、また話が違ってくる。 「そう……世子とは、どう? 上手くやっていて?」  瞬間、イノは息を呑んだ。  やはり、そのことで呼ばれたのだろうか。  考える一瞬の間は、どうやら叔母に否定の意を伝えてしまったらしい。 「……あまり、そなたの許へは通って来ないの?」 「……いいえ。そうではありませんけれど」  イノは目を伏せたまま、歯切れ悪く答えた。  夫となった世子は、新婚初夜にも優しく接してくれたし、観象監(クァンサンガム)〔天文、風水などを扱う気象関連部署〕の指示する床入りの吉日には、きちんとイノの許を訪ねてくれる。だが、それだけだ。 「あの方は……わたくしを妹以上には見て頂けないようです」  側室とは言え、世間的には、イノは世子の妻になった。だが、世子個人から見たイノは、妹以上でも以下でもないらしい。 『すまない。そなたは私にとって、大切な妹なのだ。兄妹としては、そなたを愛している。だが、妹を女人として抱くことはできない』
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