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初夜の晩、はっきりとそう言われてしまった。
叔母を訪ねる折りに、時々世子とは顔を合わせていたが、それが裏目に出たのだろうか。
初めて彼と会った時、見目麗しい世子に、イノは一目で心を奪われた。その頃、イノはまだ十歳だったが、恋心を抱くのに、年齢は関係なかった。
だが、四つ上の世子にとっては、イノは恋愛対象外だったようだ。そして、対象外のまま親しくなり、それ以上にならぬまま成り行きでイノを妻に迎えた、というところなのだろう。
「……そう気を落とすことはありませんよ。そなたは後宮へ上がったばかりなのだから」
「はい……ありがとう存じます、王妃様」
つい、弱々しく返事をしてしまったイノを、心配したのか。
衣擦れの音を立てて立ち上がった王妃は、イノの前へ歩む。膝を突いた王妃の白い手に手を取られ、イノは思わず顔を上げた。
「あ、あの、王妃様」
戸惑ったように言うと、柔らかく微笑した王妃と視線が合う。
「二人だけの時は、今まで通り叔母様と呼んでいいのよ」
「ですが」
「慣れるまでは苦労もあるでしょう。特にそなたはわたくしの姪だ。縁故関係で揀擇を勝ち抜いたと、陰口を叩く者もあるかも知れない。でも、気にすることはないのよ。堂々としていなさい」
「……叔母様」
「時が経つ内には、世子も異性としてそなたを見るようになるでしょう。まだ半年です。諦めるには早すぎます。元気をお出しなさい」
ね? と小首を傾げるように言った叔母に、イノはようやく笑顔らしいものを返した。
***
「ヤンジェ様」
「ウォニョン……叔父様?」
居所へ戻ると、庭先に叔父であるユン・ウォニョンが待っていた。
胸背に鶴の縫い取りが施された、青地の官服を身に着けた青年が、下腹部の辺りに両手を重ね、軽く頭を下げる。
「お久し振りでございます。その後、お変わりはございませんか?」
面長の輪郭に、目鼻立ちの整った容貌が、普段と変わらない笑みを浮かべた。
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