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「先程、ウォニョン叔父様がわたくしの宮に来られたのだ。その時に、お忘れ物をなさったので、届けに来た。叔父様はまだこちらか?」
「はい」
「では、王妃様に取り次いでくれ」
畏まりました、と更に深く腰を折ると、尚宮は中に向かって口を開いた。
「王妃様。ユン・ヤンジェ様がお越しです」
すぐに「お通しなさい」と返答があり、尚宮がこちらを振り返る。
「どうぞ」
と言われると同時に、イノは中へ足を進めた。
部屋へ歩を進めると、控えていた内人〔女官の位の名称〕が扉を開く。
「王妃様」
扉の中へ足を踏み入れ、軽く頭を下げる。
上げた視界の中には、先刻別れたばかりの二人――王妃と叔父の姿があった。
「どうしたの、イノ。忘れ物でもした?」
「いえ。先程、叔父様がわたくしの許へ来られた時、お帰り際に贈り物をくださったのです。ですが、どうやらご自分の巾着と間違われたようで……王妃様の許へ行くと申しておられたので、まだいらっしゃるかと」
イノはニコリと笑顔を浮かべると、唐衣の前裾の下へ隠していた手を取り出し、叔父に歩み寄った。
「いけませんわ、叔父様。ご持病がおありとは存じませんでしたが、ご自分の常備薬を入れた袋と贈り物を取り違えては……下手をすればお命に関わります」
床に膝を突き、巾着を床へ置いて滑らせた。
「お渡しできてよかったですわ。それでは、わたくしはこれにて。ご歓談中、失礼致しました」
後半は王妃に向けて言い、立ち上がる。深々と頭を下げ、静々と二、三歩後ろに下がったあと、踵を返した。
しかし、交泰殿を辞して程なく、「ヤンジェ様!」と背中から叔父の声が追い掛けてきた。
構わず歩き続けていると、「ヤンジェ様をお止めせよ!」と後ろを歩いている女官たちに向けたと思しき声が続く。
「ヤンジェ様」
囁くように、すぐ後ろを歩く尚宮に呼ばれ、イノは仕方なく足を止めた。
同時に、息せき切った叔父が正面へ回り込む。
「ヤンジェ様。これは、どういうコトです」
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